夢だけじゃ 夢だけが

恋することが世界の平和♡

7月に読んだ本

 7月は一冊も本が読めないかも、と憂いていたけどなんとか読み終えられた。

映画でも音楽でも本でも「数」は重要ではないけど、読みたい本がある以上いっぱい読みたいと思うのも事実なわけで。

◾️『フィフティピープル』著:チョン・セラン

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 数年前に祖父母が亡くなるまで、よく市内の大きな病院に付き添いで一緒に行っていた。大きな病院はいつも人で溢れかえっていて、予約をしていても1、2時間順番が来ないことなどザラだった。それでも、付き添いでいく病院のロビーはそこまで嫌いにならなかった。

 大きな大学病院を中心に交差する51人(タイトルは50人だけど)の群像劇。年齢も性別も職種も違う51人がそれぞれの生活を送っている。

出てくる人たちは、本当にどこかで実際に存在しているような人々ばかりで、訳者が「人生の同僚」を見つけることが出来ると言うのも頷ける。例え出てくる人たちが気に入らなくても、全くの他人が淡々と生活を送っているという事実は自分の心にゆとりと冷静さを与えてくれる。

 正直フィクションとはいえ、読んでいて辛くなるような登場人物の話もあって。でもそれは、あとがきで実際に韓国で起こった事件や問題をベースにしている部分もあると知って、社会を反映していくチョン・セランという作家がますます好きになった。社会に誠実な人は素敵だと思う。

 ソ・ヒョンジェの章でソ先生が語った話がとても良かった。色んな事がめちゃくちゃでぬかるみの中にいるみたいで努力しても挫折して後退していくみたいな現実が辛い。

でも、ソ先生は「石を遠くに投げる事」だと考えてみてと言う。みんな同じ場所から石を投げてるわけじゃない、前の世代の人たちが投げた石を拾ってまた自分はそこから投げる。次の世代の人たちのためにリレーをするように、と。そう思うと幾分か、気持ちが楽になる。

こんなに辛くて苦しいのにどれだけ伝えても伝わらない事に絶望をしていて、だけど「今」は伝わらなくても次の世代、次の人たちには伝わるといい。

ちなみに自分がいいなって思った人たちは、フェミニストで気が強くてDV被害者を支援する施設を運営するイ・ソラ、友達の中絶手術に付き添うイ・スギョン、友達にカミングアウトしたチ・ヨンジ(とその友達たち)。他人に親切で優しい人たちに創作の中で出会えるとハッピーな気持ちになる。

それと、福祉に携わる身としてはイム・チャンボクの話も良かった。認知症の症状が出ているお母さんを老人ホームにいれたチャンボクと妻の会話。妻が言った「福祉って大事よね。」という一言。長らく新自由主義者として生きてきたチャンボクも福祉の恩恵に与ってきた事に気付く。本当に福祉って大事。

本を読んでいて、なぜ自分は祖父母の付き添いで行く大病院のロビーがそれほど嫌ではなかったのかを考えていた。きっと、こんな片田舎で人がたくさん集まる場所がなんてなくて、一層際立ってしまう個が大病院のロビーでは埋もれるからだと思った。それと世の中には色んな人がいる、当たり前のことだけど田舎に住んでいるとついつい忘れてしまう。それを、大病院のロビーという場所は思い出させてくれる事が何より楽しかったのかもしれない。