夢だけじゃ 夢だけが

恋することが世界の平和♡

11月に読んだ本

 今年もあと5日というところで、このブログを書いており夏休み最終日に一言日記を書いている小学生の頃を思い出した。絵を描いたり作文を書いたりすることは割りと真面目にやっていたけど、一言日記や計算ドリルのようなものはいつも先伸ばしにしていた。何かをコツコツ続けるのがどうも苦手みたいだ。

 

■『闇祓』著:辻村深月

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 社会人になって世の中には本当に色んな人がいるということを知った。いい人、悪い人、色々いるけど大概の人は大体優しいし、例え嫌な人だったとしてもどうでもいい人ということで自分から距離をとれる。

だけど、至極まれに「邪悪な人」が存在する。

 

 【闇ハラスメント・闇ハラ】精神、心が闇の状態にあることから生ずる、自分の事情や思いなどを一方的に相手におしつけ、不快にさせる言動、行為。本人が意図する、しないに関わらず、相手が不快に思い、自分の尊厳を傷つけられたり、脅威に感じた場合はこれにあたる。

 

 恐らく「闇ハラ」なる言葉は本書の造語だと思うが、それにしてもピンポイントでうまいところをついた言葉だと思う。細かく読み説いていくと「闇ハラ」は「パワハラ」や「モラハラ」に分類されると思うが、「闇ハラ」の怖いところは他人を操ろうとする悪意が見えにくいからだと思う。

 1章の話ではお人好しの委員長・澪がクラスに馴染めない転校生の面倒をみるのだが、転校生の言動がどうもおかしく恐怖を募らせていく。その事がきっかけで澪は部活の先輩と付き合うことになる。しかし、次第に優しかった先輩がモラハラめいた態度に変化していく。

1章の話は分かりやすいが実は澪を支配しようとしていたのは先輩で、その先輩こそ他人の家に入り込み悪意を植え付ける存在だったのだが、2章3章と読み進めていくとより呪いにも似た悪意の形が明かになる。

 この話はもちろんフィクションだけど、無意識にかわざとなのか、現実にも他人を支配しようとしたり操ろうと焚き付けてくる人間は存在する。難しいのは人間としての勘みたいな部分でしか感じられず、その事を回避することも糾弾する事も出来ない。他人に言えば、「考えすぎ」と相手にされない事の方が多いかもしれない。

段々と書いているうちに陰謀論めいてきたが、現実にも他人を支配しようという野心をもった狡猾な人間がいると思う。それがなにより怖いし邪悪だと思う。人間が本能的にしか感じ取れない目に見えないものを、上手く物語にしている面白い小説だった。

 

■『戦争とバスタオル』著:安田浩一 金井真紀

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 映画でも本でも戦争の話というと、ついつい距離をとりたくなってしまう。悲惨な歴史に向き合うことはとても大事なことなんだけど、知れば知るほど辛くなってしまう。

【風呂から覗いた近代史】をテーマに、戦争で「加害」と「被害」の交差点となった地に赴き温泉や銭湯に浸かる。お風呂で体を溶かしながら、その土地に残る戦争の痕に心を向ける。

恥ずかしながら戦時中日本がタイで何をしていたのか、どのように人間を傷つけていたのかを初めて知った。

タイのジャングル奥地にあるヒンダット温泉は、戦時中日本人が開拓した温泉だという。当時、兵士として現地にいたであろう日本人は温泉に浸かりながらどんなことを考えたのだろうか。

 本の中では日本国内の軍事施設にも訪れている。印象的なのは広島県にある大久野島の話だった。戦時中は毒ガス兵器の島として、近隣住人にも何を作っていたか秘匿されていた島だ。

大久野島でガス兵器製造の仕事に携わっていた、男性の方の話がとても印象的だ。14歳にして人を殺すための兵器を作ることを覚えさせられ、95歳になった今でも毒ガスの科学方程式が暗唱が出来る。作中では彼の残した製造過程を記録した鮮明なメモも見られる。彼が語る戦争中の鮮明な記憶と兵器を作ったという罪の意識は文章からも痛いほど伝わってくる。

最後に、毒ガス兵器を作っていた男性は、「自分は戦争によって鬼にされた」と語る。鬼にされないために、歴史を語り歴史に耳を傾けていなくてはならない。