夢だけじゃ 夢だけが

恋することが世界の平和♡

3月に読んだ本

◼️『海をあげる』著:上間陽子

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 高校の修学旅行で初めて沖縄に行った。確か2月頃の旅行だったが、空港に降り立った瞬間に襲ってきた、あの蒸し暑さを今でも覚えている。

初めて行った沖縄は、日本だけど、どこか日本じゃないみたいだった。海外にも行ったことのない高校生の自分からしたら異国のようにも感じた。

 沖縄で未成年の女の子たちの支援、調査を行い続けている著者のエッセイ集。社会と密接に関わる著者だからこそ、自身の生活と沖縄の社会との関係性が深く結びついていて誰にも書けない文章だと気付く。

最初の方に書かれている文章だけ読むと極めて私的な内容ながらも、沖縄という土地でひたむきに生きる人々の息吹を感じる。と、思っていた。

でも、この本はそのような感想がいかに無神経で残酷なものでしかないか、を最後まで読み進めると教えてくれる。

いつまでも飛び続ける大きな軍用機、埋め立てられ死んでいく海、沖縄のことなのに遠く離れた東京の人が沖縄を決めていく。

最後の文章、表題にもなっている「海をあげる」を読むと嫌でも感じる、「もう限界だ」という著者の叫び。

この本を読み終えた人に海は託された。これはもう、遠く離れた土地の話ではない。ましては異国の話などではない。

 

◼️『夢の国から目覚めても』著:宮田眞砂

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 いつからか百合というジャンルに惹かれていた。キッカケは覚えているけど、いつの間にか深くハマっていた。

百合とは女性同士の恋愛、友情などを描いたものだ。「など」という曖昧な濁し方をしているのは、百合が極めて広義的な物を指しているからだ。因みに私は「女同士が何らかの感情を通わせている状態」だと自分の中で意味付けている。

 百合同人漫画を描く有希と相方の由香。有希はレズビアンで由香に密かな恋心を抱いている。一方の由香はヘテロセクシャルで彼氏もいる。二人の関係は有希がその気持ちを隠すことにより成り立っていた。

 一昔前は「百合はファンタジー」だと言われていた。それは実在するかしないか、という意味だけでなく、その方がより百合という世界が強固になるからだと思う。

だけど、その「ファンタジー」は結局のところ、より世界を、誰かの気持ちを、孤立させただけだったのかもしれない。

この本の中で描かれる百合は圧倒的にリアルだ。有希と由香は「一体、百合は誰のためにあるのか」と思い悩む。

そして、物語を超えてその問いは読者にも問いかけられる。

 この本は「百合」という一つの創作物のジャンルを通して、ジェンダー的な部分にも訴えかけてくる。

全ての女の子の気持ちが報われること、全ての女の子が肯定されること。本来そんな当たり前であるはずのことを有希や由香を通して投げかけてくる。

事あるごとにセクシズムととれるような広告や創作物が世に生み出される。しかし、実はその裏側でおかしいと思いながらも、仕方なくクライアントの要望に応えて仕事をしている人がいるかもしれない、という描写まで登場する。徹頭徹尾、社会の喜び、悲しみ、怒り、優しさが物語の中に汲み取られている。

 

 読み終わったあと、「私にとって百合ってなんだろう?」と考えてみた。ヘテロの漫画を読むことがいつの間にか違和感になり、ラブストーリーという創作物を好まなくなっていたあの頃。初めは「百合」というジャンルの特別感を楽しんでいたのだと思う。それがいつの間にか、かつて言えなかったあの子への「好き」という気持ちと共鳴していた。あの子に言いたかった「好き」の数だけ私は「百合」に想いを馳せる。

これは、女という立場から百合を見つめ、百合という世界からその外側を見つめる女の子達の物語だ。丁度、本を読んでいた3月17日に札幌地裁で、法律上同性同士の結婚を認めない現在の法律は「合理的根拠に欠く、差別的扱いに解さざるを得ず」、「違憲」だと明言する判決が言い渡された。

どうか、百合の外側にも無限の夢が続いてる事を願うばかりだ。

◼️『あのこは貴族』著:山内マリコ

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 2021年に入って3ヶ月だが、間違いなく今年ベスト1になりうる映画を観た。それが『あのこは貴族』だ。

東京生まれの箱入り娘・華子は結婚を夢見てハンサムな弁護士「青木幸一郎」と出会う。

一方、地方出身の美紀は猛勉強のすえに慶應生となるが、金銭的な事情で中退する。そんな美紀も腐れ縁のような関係で「幸一郎」と出会っていた。全く違う境遇の二人の女性が出会い葛藤しながらも東京という街で生きていく物語。

 映画が公開される以前から、どうやらシスターフッド的な映画だという事は聞いていた。洋画ではシスターフッドを取り入れた映画が出来てきたが、邦画ではまだまだ未開拓だ。

女同士が連帯するといっても、浮気された女同士が助け合って男に仕返しをするという話ではない。出会うはずのないような女同士でも、通じ合って助けあったりしながら良い距離感でお互いの置かれた場所で生きていく。

そんな、物語や景色が映画や小説を読んだ私にはものすごい希望となった。フィクションの物語に私は孤独ではないんだと思わされた。それだけ女は分断され続けてきたのかもしれない。

そして、この感覚を忘れないために私は映画を観たり、本を読んでいるのだと思う。

 

◼️『裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT』

著:宮澤伊織

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 『裏世界ピクニック』シリーズの最新作。5冊も出てたのに全て読み終わってしまった。アニメが終わったタイミングで今作が出版されたが、早くも次が待ち遠しい。

初めは鳥子から空魚への一方的な「好き」という感情だったが、空魚もその気持ちに誠実に向き合い精一杯受け止める。人嫌いな空魚が鳥子と向き合う姿に自然と頑張れ、と応援したくなる。

それにしても、ホラー作品ではないしネットロアという超常現象的なモチーフを扱っているが、読んでいると背中がゾクっとするような怖さが上手いと思う。いつの間にか裏世界に魅了される人たちが分かる気がする。怖いと思いながらも、もっと知りたいと思う好奇心は人間のサガか。

今作で一つお気に入りのシーンがある。Tさんという謎の人物の痕跡を追っていこうとする空魚と鳥子に、小桜が協力する場面だ。アニメを観ていても、小桜の小さくてかわいい見た目が作品の中の一つのマスコットの様な存在だったが、この場面で小桜は大人としての責任を果たす。作品を飾る為だけのご都合的なかわいらしいキャラクター、ではなく一人の大人としての小桜の感情が垣間見える瞬間に作者のキャラクターへの誠実さが窺える。